「ル・ポールのドラァグ・レース」の面白さを伝えたい

ツイッターのフォロワーはご存じの通り、昨年末から「ル・ポールのドラァグ・レース」にそれはもうハマっている。
ル・ポールのドラァグ・レース、本当に面白い。超人気番組なので自分が紹介するのも今更だが、どこが面白いのか?と自分なりに考えたことを書き連ねる。

 

そもそも「ル・ポールのドラァグ・レース」とは
ドラァグ・クイーンの大御所、ル・ポールがホストを務めるリアリティーバトル番組である。全米から集う14人前後のドラァグ・クイーンが、賞金10万ドルと「ネクスト・ドラァグ・スーパースター」の座をかけて、さまざまなチャレンジに挑む。
番組の1回は、大まかに3部で構成されている。簡単なミニ・チャレンジ、様々なお題を個人戦またはチーム戦で競うメイン・チャレンジ、チャレンジ以外にテーマを設けられる(あるいはメイン・チャレンジそのものにもなる)ランウェイだ。
メイン・チャレンジとランウェイの両方がジャッジされ、1回ごとに勝者が決まる。特に評価が低かったコンテスタント2人(=BOTTOM2)は「リップシンク」という口パク対決をし、印象に残った1人は残留、もう1人は敗退が決まる。それがTOP3またはTOP4になるまで続く。

 

ル・ポールのドラァグ・レース(以下RPDR)の面白さ

●多様なチャレンジ

フォロワーの「TVチャンピオンを見てたから多ジャンル能力バトルが好き」という旨のツイートを見て、「そうだ……RPDRの面白さはチャレンジの面白さ、ひいては『能力バトル』の面白さなんだ……」と思った。
自分は視聴するまで「美しさを競うミスコン的なやつかな」と思っていた。もちろんランウェイもあるのだが、メイン・チャレンジでは実に様々な才能を問われる。デザイン(+裁縫)、ダンス、歌、演技、トークにコメディー……。

コンテスタントにも得手不得手があり、ファッショニスタもいればコメディーが得意なクイーンもいて、マルチな才能を持ったオールラウンダーもいる。そのジャンルが得意な人が勝つのか?というのがドラマのポイントでもある。
RPDR自体はシーズンごとの繋がりは薄いが、「リーディング」(disバトル)や「スナッチゲーム」(モノマネ)、「メイクオーバー」(非ドラァグの人をドラァグ・クイーンに変身させ、ペアでショーをする)など、毎シーズン行われる恒例のチャレンジもあり、シリーズのファンになるとそこでも満足感が味わえる。

得意分野の才能を遺憾なく発揮する姿は見ていて気持ちがいいし、自分の殻を打ち破ろうとする姿も印象的だ。とにかくどのチャレンジも見ていて飽きない。特にシーズン6~7以降は、ユニークなチャレンジがたくさん見られる。

90年代を意識したオリジナル・ラップを披露したり、

全身の半分女装・もう半分男装でダンスをしたり、

  ハローキティ―とコラボしてハローキティーの親友キャラをつくったり、

 オリジナルの「おとぎ話の姫とサイドキック」を創作して、その世界観を表現したり。

何ならオタクの方がハマると思う。

エピソードではなく、チャレンジとして自分が好きな回は、
・既成のウェディングドレスをリメイクして花嫁衣裳をつくり、男装の自分と女装の自分のマリッジフォトを撮る "Here Comes the Bride"(S2EP5)
・上記に挙げた、自分でおとぎ話のプリンセスを創作し、衣装とサイドキックをつくる "Draggily Ever After"(S9EP3)
・自分の陰と陽の部分を表す、2人の異なるキャラクターをつくってランウェイをする"Evil Twins"(S10EP11)
文字だけでめっちゃ面白そう。
こう並べると、自分は「2つの自我」を表現させるチャレンジが好きなのかもしれない。

一番好きなメイクオーバー・チャレンジは「年配のゲイ男性を自分のドラァグ・マザーに変身させる」(S2)だけど、これはチャレンジそのものというよりエピソードがよかった。どうよかったかはそのうち書きたい。

 

●個性的なクイーンたちの人間ドラマ

この番組には、個性あふれるドラァグ・クイーンがたくさん登場する。それぞれのキャラクターもさることながら、そこで生まれる人間模様や、作業室でのカミングアウト……など、見ていて惹かれずにはいられない。

みんなそれぞれに我が強いので、喧嘩で雰囲気が悪くなることは割とある。激しい口論や派閥争いが起こることもある。ちなみに自分は険悪な人間関係にかなりストレスを感じるので、バチバチのバトルは正直あんまり……というか全然好きじゃない。けれども、どんなにギスギスしてもカミングアウトに対してはみんな真摯に耳を傾け、寄り添う姿勢を見せる。これが本当によくて、だからこそコンテスタントは自分のナイーブな部分や痛みを打ち明けるのだろう。

いろいろな事情を抱えたクイーンがどのようにドラァグに出会ったか、またドラァグを通じてどのように変わったのか、知ることができるのも面白い。シリーズ初期は割とはっきりと「素の自分とドラァグ・クイーンの姿は別物」というような描かれ方がしていたように思う。コンテスタントが「彼女は社交的でチャラい。自分には絶対できないこともできる」と語っていたり、リハーサルでは散々だったコンテスタントが「ドラァグをしていれば素の自分ではできないこともできる」と、舞台では堂々と歌を披露したり……。

いろんな背景のコンテスタントがバトルもあるけど、同じくらい助け合いや友情、ほんのたまに恋(!)が生まれて、そんな人間模様に心が揺さぶられる。両親との確執、つらい過去、病気、ジェンダー……など、コンテスタントのいろんな経験が聞けるので「とにかく人の人生をいっぱい知るのが好き」という人にもおすすめ。

 

●美しく奇抜なメイク&ファッション

最近、「それはルッキズムでは……」という思いから、誉め言葉でもなるべく人の容姿に言及するのを避けている。しかし、ドラァグ・クイーンの美しさはいくら褒めてもいい。なぜなら、それは容姿の良し悪しで決まるものではなく、彼女たちが目指したパフォーマンスだからだ(ちなみに、ドラァグ・クイーンについて「素顔がイケメン!」や「変身ぶりがすごい!」というような触れ方をしてる人も見るが、そういう感想はだいぶ苦手)。
とにかく美麗で言うことがないファッションも、お題に対するユニークな回答としてのファッションも、とにかく見ていて飽きない。

1人モノクロフィルターがかかっていたり、

 一瞬で切り替わる2wayルックだったり。

公式がまとめたフィナーレの入場ルック動画、永遠に観ていられる。

youtu.be


以下、特に「これ好き」となった衣装。
・S7EP3のMax 

 そもそもMaxが好きなんだけど、中でもこの衣装は特に好き。光沢のあるブラウスと短いパンツ、コルセットとブーツもすべてが完璧。ダリ風の髭が生えているのは、ランウェイのお題が「美女と髭」(美女と野獣のもじり)だったから。

・S2EP5のRaven

かわいい~。
この画像では全身が見えないけど、このドレスはカチューシャと靴に合わせたターコイズの小さなリボンがたくさんついていて、とてもかわいい。いつもクールなRavenが「結婚にはしゃぐ若い娘」を演じるのも、ギャップがあって最高だった。

 

●命を懸けたリップシンク

チャレンジでBOTTOM2になったコンテスタントが行う、口パク&ダンスパフォーマンス。洋楽に疎くても聞いたことがある名曲ばかりで、勝ち残りをかけて熱い名勝負が繰り広げられていた。
よりル・ポールの心に響くパフォーマンスをした方が残留となるため、コンテスタントは様々な手段で審査員にアピールする。ウィッグや衣装を脱いだり、スプリットやデスドロップを決めたり……。

難易度が高い技がバッチリ決まる様子は、本当の競技のような緊張感もある。

 


BOTTOM2にならなければリップシンクをすることもないのだが、このリップシンクがたいそううまいクイーンもいる。何度BOTTOM2に落ちても驚異のリップシンクで勝ち上がるコンテスタントもいれば、ずっと高評価だったが一度のBOTTOM2でリップシンクに敗れ、番組を後にするコンテスタントもいる。そこがまた優勝者の読めない展開に繋がっている。また、因縁の対決だったり、仲よくレースを勝ち残ってきた仲間2人の対決だったりして、バトル単体だけでない文脈が乗ってくるのが面白い。

こればかりは説明不要というか、言葉で書いても伝わらないだろう。楽曲の権利の関係か、YouTubeの公式アカウントにも載っていないので、以下に印象的なリップシンクを書き連ねておく。

・S2EP4: Sonique vs. Morgan McMichaels(曲:Stacey Qの"Two of Hearts")
初めてリップシンクの醍醐味が分かった回。体全体を使って舞台の上を駆け回りアピールしたSoniqueと、大きな動きは少ないが腕の振り付けや口パクが曲にピッタリだった。

・S5EP9: Alyssa Edwards vs. Coco Montrese(曲:Paula Abdulの"Cold Hearted")
S5で(RPDR外の理由で)謎に揉め続けていたAlyssaとCocoが遂に直接対決、という文脈が乗っていて熱い。AlyssaもCocoも何度かBOTTOM2に落ちては圧巻のパフォーマンスで勝ち残ってきたリップシンク強者なので、技術の高い2人だからそれだけで単純に楽しい。2人のダンスアプローチがまったく違うのも面白い。

歌詞の"He's been tellin' lie"でCocoを指さすAlyssa、気が利いている。
今では仲直りしている2人なので、S5のバチバチを見ても呑気に「喧嘩百合で萌えるな……」などと思えるのがいいところ。

・S9EP14: Shea Couleé vs. Sasha Velour(曲:Whitney Houstonの"So Emotional")
上とは逆で、レース中仲のよかった2人の対決。まず2人が手を繋いで入場するところに萌えを抑えきれない。
"I get so emotional, baby Everytime I think of you"でSheaがSashaを指さし、Sashaもそれに応えているところで、こっちがso emotionalになってしまった。
このリップシンク自体はRPDRの中でも一番有名なイメージがある。リップシンクに飛び道具(口パクとダンス以外の要素)を持ち込むのはどうなのか?という意見はあるようだけど、Sashaのプログラムのうまさは群を抜いている。

 1輪の薔薇を手に可憐に入場→曲が始まった途端、薔薇をむしり始める→からの……と流れが非常に巧みで、観客の予想を裏切るのがすごい。
あと、やっぱりSashea(2人のshipping名)だから萌える。

・S10EP4: Monét X Change vs. Dusty Ray Bottoms(曲:Nicki Minajの"Pound the Alarm")
これも名勝負と名高い一戦で、ランウェイ・テーマが「地球最後の舞踏会」で、アラーム音に合わせて終末感が出ている。"Pound the Alarm"のMVの明るい毒々しさと比べて、ポストアポカリプス感が強い。
リップシンクではスプリットはもう珍しくない」という印象が定着してきたところで、このフェイクスプリットが来たものだから、ル・ポールと一緒になって笑ってしまった。

Dustyの迫真の演技も相まって迫力のあるリップシンクに仕上がっている。

 

ドラァグ百合

 健康にいい。

 

推しクイーンについて、また推しカップリング(?)については、また改めて記事にしたためたいと思う(字数の割に長いこと編集していて、疲れてしまったため)。

今なら、Netflixで日本語字幕付きでS1~12まで視聴可能である。Netflixに加入しているなら、とりあえずはマイリストに入れておいてほしい。そして思い出した頃に再生してほしい。どこから観ればいいの?という方にはとりあえずS1EP1から、と言っておくが、気になるコンテスタントがいれば彼女が出ているシーズンから見てもいい。
「見たいのはチャレンジよりファッション?」「ギスギスしたバトルは大好物?」などの質問から、シノネイターのオススメシーズンを教えることもできる。ぜひ一度視聴して、RPDRの面白さを知ってほしい。