5月に観た映画

 

 

 

グラン・トリノ

家族にも時代にも取り残された偏屈保守派右翼ジジイが、移民の青年たちと心を通わせるものの、暴力に暴力で対抗したが故に残酷な悲劇を迎え、やがてある結末を迎える。この「偏屈右翼ジジイ」というキャラ造形、『運び屋』でも見たな……(こっちのが公開が先だけど)。
デトロイト在住のフォードの整備工、ポーランドアメリカ人とモン族、暴力と贖罪……とか、なるほどな〜と思ったけど、正直なところ「なるほどな〜」以外の感情があまり湧かなかった。イーストウッドはかつてのアメリカ西部劇時代を代表する役者で、だからこそ「古き良きアメリカの終焉」を描くことに意味がある……んだと思うけど、正直あまり実感できてない。だって老人の方が馴染み深いし……。

コワルスキーは老人でも普通〜にめっちゃ格好いいし、まあなんだかんだで憎めない愛すべきジジイなんだけど、「別の共同体となんかいい感じの付き合いを持って、最後にそのためにヒロイックに死ぬの、めちゃくちゃ気持ちいいだろうな……」という感想が浮かんでしまった。意地悪すぎるかな……。「家族を顧みなかったから実の子から見放されている」というの、「ミリオンダラーベイビー」も「運び屋」もそうだったし、そのくせ本作でも別の共同体で心地よく家族ロールをやってて……なんか……いいんだけどさ……。「継承は血縁に寄らない」というのも、まあ……分かるんだけどさ……。

当然いい映画だしおもしろかったんだけど、自分の中でイーストウッド監督作品はディズニーと同じく、一定以上の面白さや質の良さは担保されていて、それを超えて好きになるものや胸に響くものがあるかどうかが評価の分かれ目、というところがある。映画館とかで観ればまた気持ちの入り方が違ったんだろうか?

 

『チョコレートドーナツ』

ゲイのカップルがダウン症の子を引き取り育てるが、ゲイ差別の前に引き裂かれる。嫌いなところもないけど、取り立てて好きなところも正直ない……というタイプの映画だった。邦題が(原題より)いい。

 

エスター』

※再鑑賞
光る雷、暗闇に映されるエスターの顔!怖い音!エスターの顔!ストレートだ。怖いというより「あっ、嫌だな……なんか来るな……嫌だな……」という予感をきっちり回収する感じで、期待を裏切らない。
よかったところ。母親がエスターだけでなく、アルコールの誘惑や姑や夫とも戦う姿。あんまりホラーあるあるとして挙げられてるイメージないけど、「子供を連れて逃げる/子供のために戦う母親」もホラーの類型の一つにあるよね。ホラーというかスリラー? 恐怖という塩が愛というスイカを引き立てる……みたいな感じなんだろうか。

 

死霊館

死霊館 欠陥住宅フォレスト・ガンプ 一期一会)
子供がベッドの下に引き摺り込まれそうになるシーンが一番怖くて、あとはそうでもない。高い評価を受けた作品らしいけど……宗教観の違いなのか? 悪霊がはっきり見えて、しかも明確な言葉で喋るの、Jホラーにはない味わいだな〜(Jホラーもそんなに観てないけど……)。悪霊がアグレッシブになるほど怖くなくなるので、怖いという感情は「理解や対話ができないものが」「理不尽に振りかかる」という要素が大事で、こういう理由で襲ってきます!とはっきり描いてしまうのは怖さを減退させるな〜と思った。

よくなかったところ。子供が多くて区別がつかない。全体的に、実話ですよ~というスパイス以外の物語性が薄く感じる。命を削って云々のくだり、いる?
よかったところ。悪霊はアトラクション!

 

最高の人生の見つけ方

たまたま同じ病室になった余命の少ない2人が、死ぬ前にしたいことリストをいろいろやる。そこそこの仲の人と観て「死ぬ前にしたいことリストに何書く?」みたいな話をするのにぴったりな映画だ。ベタだけどそこそこキャッチーなので、邦題モックバスターが生まれるのは分かる。うーん、しかし好きなところも嫌いなところもあまりない。

 

ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』

高額当選者という詐欺にあった老人とその息子が2人で懸賞金を受け取る旅に出る。よかった……。今月観た映画で一番好きかも。人生ってしょうもないけど、虚しいじゃないよね……みたいな味わいがあり、「人生って素晴らしい!」みたいな映画より個人的には全然沁みる。

よかったところ。デヴィッドがエドをぶん殴るとき、一度背を向けて自分を奮い立たせるところと、殴ったあとの仕草。普段人を殴り慣れていない感じがリアル。
父親の昔の彼女に父の過去(戦争)の話をされるが、特に深掘りされないところ。知らない父の一面を知り「父はいい人間だった」「偉大だった」と気づく……のではなく、やっぱりどうしようもなく卑近で、でも多面的で、人間ってそういうもんだよね。”恋の勝者”である母より父親の元カノの方が明らかに知的なのが、また何とも……。
母が父に「おバカさんね」とキスするところ。何だかんだで愛情がある……というのもまああるだろうが、人生の終わりに近づくにつれ、それまでギスギスしていたものがまるでよき関係であったかのように収束していく、そういう働きがあるよな……人間って。
最後、無免許で中古トラックをノロノロ走らせるのがウディの「勝利の凱旋」であって、滑稽さと温かみを感じる。

そんなわけで、しみじみとよかったな〜。あと、ごく個人的な思い出として、大学時代に友達が高田馬場を歩きながら、この映画の話をしてくれたっけ。なんかこういう些細なことをすごくいいものとして思い出すたび、大学時代が相当眩しく焼き付いていたことに気づかされる。