感想0304

Poor Things(哀れなるものたち)

youtu.be

ファーストデイに観た。いい時間にやっていたので。思ってたより面白かったです。

この監督の作品を初めて観たんだけど、不協和音のようでギリギリ不協和音の劇伴とか、非常に凝った画面、ぼかしや魚眼レンズの多用など、好みが分かれそうな濃い味付けだな……と思った。特に美術はすごかった。引きの絵で一気に非現実的な造形を見せてくるところが、他の作品では味わったことがないなと思いました。すごいと思うものの自分的には好きでも嫌いでもなかったんだけど、テーマがかなり直球で「女性の自立」だったので、そのギャップがちょっとおもしろかった。テーマ自体もそうだし、女性の性欲が忌むべきものではなくからっと描かれてたのも好印象でした。

しかし語り口は悪趣味なダークコメディで、テーマとややアンマッチな気がして(ラストで思い切りそっちに振ってるところとか)、若干どっちで楽しんだらいいのか分からない気持ちになりました。でも役者もピッタリで演技も力が入ってたし、いいもの観たなという満足感が大きい。特にサブだけどマーサとハリーがいい感じでした。マーサが「殺されるのは初めてだわ」と言うのに対し「死にたいらしい、やってやれ」みたいなこと言うハリー、さすがにちょっと萌えだろ。

この監督の作品、名前は聞いたことあるけど観たことないので、他の映画も観てみようと思った。

Anatomie d'une chute(落下の解剖学)

youtu.be

上とは打って変わって、バキバキな編集や劇伴がない(音楽は序盤で夫が流す音楽と息子が弾くピアノくらい)という一見地味な映画でした。印象的なカットはあるけど、ポスターになってるシーンが一番人目を引いた。正直言って裁判が始まるまではときどき眠たく感じたけど、裁判が始まってからは緊張感がありました。

事件の真相は最後まで明かされないんだけど、これはそういう真相解明スッキリ系の映画ではないな、というのは何となく序盤で分かる。だからまあ予告編で匂わせてるようなミステリーとかサスペンスではないよね。結局何が起こったんだという気持ちも正直ないではないけど、観客への情報の提示のされ方が印象的でした。手書きのメモ・ミニチュア・CG・現場検証とありとあらゆる形で事件のシミュレーションがされるけど、どれを信じたらいいか分からない。回想のように見えるシーンはあるんだけど全てが推測によるもので、その推測でさえはっきりと映さない部分があって、喧嘩の録音が映像から音声のみに移り変わるシーンは「うわっ」と思った。だから何というか……「起こったこと=事実」は確かなものがあるんだろうけど、それが誰にとっても同じように見えるとは限らないし、事実を証明する手立てがないとき人はどうするか?という話……だと思う。あまり自信がない。視覚障害のある息子ダニエルが「何を信じたらいいの?助けてよ!」と涙を流す場面があるんだけど、彼と同じ気持ちになりました。というか彼=観客にかけられる言葉こそがこの作品のメッセージなんだろうと思う。そう思うと彼が出した結論は、それが本当に起こった事実であるか否かはあまり問題でなく、彼がそれを選んだということに意味があるんだろうな……と思った。

観てすぐはそんなに満足感がなかったんだけど、寝る前布団に入ってふと思い返すところがある作品だった。あとこれは観た全員が思うことだと思うけど、犬の演技がすごすぎ。