オタクが語る『メンタリスト』で好きな回

ドラマ『メンタリスト』を先日完走した。先日というのももう2ヶ月以上前で、この記事も温めすぎて発酵してきたな……と思ったので、いい加減投稿します。
 
『メンタリスト』とは、2008年から2015年まで、足掛け8年放送された事件解決ドラマ。7シーズン、全151話。151話……?
CSI、ホワイトカラー、BONES、エレメンタリー……と長編ドラマをつまみ食い程度には観ていたものの、シーズン1エピソード1から最終回まで完走したのは初めてなので、感慨深い。
ドラマ全体としては、たぶん視聴者一般の感想と同じく「面白かったけどレッド・ジョンの正体は残念だったな」「というかレッド・ジョンに関わらず、終盤はスタミナ切れしてるな」などという感想を抱いたのだけど、そんなことは全然いいです。
何故なら……自分は関係性萌えのオタクだから。
 
『メンタリスト』はおもしろい。主人公・ジェーンが非常に魅力的に造られていて、彼とリズボンとの関係性といい、レッド・ジョンとの因縁といい、彼の属するCBIチームといい……。制作側はジェーンに萌えながら、彼を努めて魅力的につくろうと意識していると思う。制作陣は絶対にオタクだ!
……などと主張していたのだけど、「ファンが選ぶ『メンタリスト』の好きなエピソードランキング」みたいな記事を読んだら、自分が好きなエピソードがそんなに入っていなくて驚いた。製作陣がオタクだったわけではなく、自分がオタクフィルターを通して観ていただけだったんだ……。
 
というわけで、オタクが『メンタリスト』で好きな回を早口で紹介します。
※全面的にネタバレ
 

1文で分かるあらすじ

連続殺人犯「レッド・ジョン」を挑発してしまったために妻子を殺されたパトリック・ジェーンは、ニセ霊能力稼業を辞め、犯人を追うためにCBIのコンサルタントとなり、数々の事件を解決する。
 
キャラクターはだいたいこんな感じ。

 

「こんなのオタクはみんな好き」回

「え〜、こんなのって……みんな好きなやつじゃん!」と思いながら観ていた回。もちろんオタクに限らないようで、好きなエピソードとして挙げられているのもある。「オタク」という主語の拡大と過剰な一般化はよくないな〜と当たり前のことを思いつつ、自分はこういうエピソードがあるから『メンタリスト』が好きなんだな〜、という回。
 
  • シーズン5 第2話「血染めのダイヤ」(シリーズ通算#96 Devil's Cherry)

事件現場でお茶を飲んだジェーンが、鍋から出たウサギ(!)に導かれて、亡くした娘・シャーロットに出会う回。もとい幻覚回。現場でワケの分からんお茶を勝手に飲むな(1話からやってる)。

まず「幻覚で亡くなった娘が成長した姿を見る」という大筋からいいんだけど、この話はその見せ方もとにかくよくて……。彼女との出会い方も、こんな感じ。
「シャーロット? 僕の娘と同じ名だ」
「知ってるわ」
「……何だって? 君はレッドジョンの手先か?」
「レッド・ジョン、レッド・ジョン、レッド・ジョン! そればっかり。もううんざり」
「そんなわけない……。娘は殺されたんだ」
「……『安心して、愛してるよ、いい子だ』」
「それをどこで利いた?」
「毎晩パパが言ってくれたじゃない」
視聴者としても彼が幻覚を見ていることはかなり早いうちに分かるんだけど、娘でーす、バーン!パパ、会いたかったわ!という感じでなく、ジェーンとシャーロットのお互いを探るような会話から、シャーロットが自分が彼の娘であることを仄めかし、信じようとしないジェーンに悲しげな顔をする……というのが、もう切なくてたまらない。
この始まりに限らず、シャーロットとジェーンの会話は微笑ましくも切ない。シャーロットがティーンらしいテンションで、「パパ大好き♡」という感じではないところも、ジェーンの妄想の中の彼女のリアリティーを感じさせる。
何よりシャーロットはジェーンの想像上の産物なのに、ジェーンの復讐を肯定してはくれない。レッド・ジョンを忘れて前を向けという。ジェーンも薄々自分の復讐のやり切れなさに気づいているのか、「シャーロットには健全であってほしい」という願いなのだろうか。
「私とママは死んだの。現実を受け入れて」
「毎日受け入れてるよ」
「それが行けないのね」
ああ~(涙)
「大学はいつ?」と軽口を叩くジェーンに「素直になれないのね」と返すシャーロット。「素直になれる相手はいる?」と言われて、浮かされたようにリズボンの名前を呼ぶ。リズボンの名前を呼びながら目覚めるジェーン。萌える……。
この回は映像的にもよくて、シャーロットがいる幻覚のカットと、彼女のいない現実のカットが繰り返される。助手席でリズボンとジェーンの仲を冷やかすシャーロット、誰もいない救急車の助手席。プールではしゃぐシャーロット、誰もいない穏やかなプールの水面……。
ラスト。いつもはティーバックで紅茶を飲むジェーンが、茶葉を淹れてお茶を飲んでいる。もしかして……と思わせる、余韻をもたせる物悲しい終わり方。
メンタリストの中でも特に印象的な一話で、好きなエピソードして挙げられているのを見かける。当然だと思う。自分もとても好き。
 
これはかなり好きなのに、好きなエピソードとして挙げられてるのを全然見ない回。分かるけど。ジェーンやリズボンと比べると、CBIメンバーの描かれ方はどうしてもちょっと軽くなる。CBIメンバーの1人・ヴァンペルトが、彼女が撃ち殺したはずの婚約者の幻覚を観る回。幻覚好きだな……。
ヴァンペルトは結構不遇な立ち位置のキャラだ。敬虔で真面目な新米捜査官。リグスビーとの関係を匂わせつつも、互いに恋人ができたり別れたり……。そんな感じで、ヴァンペルトの恋人が実はCBIの敵でした、というパターンが2回もある。そして婚約者となった恋人:オラーフリンは実はレッド・ジョンの手先で、シーズン3終盤では彼を自ら撃たなくてはならなくなる。自分はネタバレでオラーフリンの正体を知った状態で視聴していたこともあり、特に彼に思い入れもなかったんだけど、この回はかなり、いい……。
死んだはずのオラーフリンが目の前に現われて動揺するヴァンペルト。オラーフリンは「君は命を狙われて、事故に遭った。アドレナリンが出て幻覚を見てるのかも。」と言う。「だが、なぜ今なんだ?」
彼に対して「あなたは私の想像上の産物よ」とつれない態度を取っていたヴァンペルトだが、話しているうちに重い口を開く。
「私を愛してた?」
「もちろんさ」
「なら、何で殺そうとしたの?」
「僕は君かレッド・ジョンかを選んだだけさ」
「なぜ出てきたの?」
「知らないよ。僕は君の想像上の産物だから」
やり返して笑うオラーフリン。

この回の2人は婚約者(元)というより戦友じみている。死んでからの方が好きな関係性だ。グッときた。

うたたねをして参考人を見失い、自分を責めるヴァンペルト。僕の件は?と尋ねるオラーフリン。
「私のせいよ。あなたを止められなかった」
「僕を殺して止めたじゃないか」とオラーフリンは笑う。
「もっと早く気づくべきだった」
「でも、どうやって? 僕を愛してたのに」
立ち止まるヴァンペルト。
「あそこだ」参考人を見つけるオラーフリン。

生きている間は結構ラブラブだった2人が……まあレッド・ジョンの差し金だったわけだが……こんなシチュエーションでロマンスを交えず話しているのがいい。そして、オラーフリンの振る舞いも策略のみによるもののではなく、彼は彼なりにヴァンペルトを気に入っていた……というのはヴァンペルトの「想像上の産物」が言うことなんだけど。

でも、生きていようが死んでいようが他人の心を完全に理解することはできなくて、その振る舞いや言葉から拾い集めていくしかない。そしてヴァンペルトは、傷ついた自分を救うために、オラーフリンの形をとって自分自身と対話している。

書いていて気づいたけど、自分が「幻覚回」を好きなのは、それが「他人の形をとった自分自身との会話」だからかもしれない。他人の中に自分自身を見つけ出し、その姿と会話することで自分を救おうとする、そういうエピソードがすごく好きだ。

最終的に、オラーフリンの幻覚が彼女の命を助ける。
「これで借りはなしだな」
ヴァンペルトに別れを告げて立ち去るオラーフリン。
ヴァンペルトにとっては2度目のオラーフリンとの別れ。こっちの方がいい別れだ。
ストーリーの都合で不遇な立ち位置になったヴァンペルトだけど、彼女が気持ちの整理をつけるためのエピソードという感じで、その描き方もスマートで『メンタリスト』らしくて、かなりよかった。
ついでにこのエピソードでは、ヴァンペルトが心配で居ても立ってもいられず、今の恋人そっちのけなリグスビーも印象的だ。この2人の関係の結末も好きなので後述する。
 

パトリック・ジェーンに萌える回

『メンタリスト』はそもそもジェーンを好きになれないと視聴が続かないと思う。ジェーンは掴みどころがなく、愛嬌があってお茶目だが、ときに冷淡で無礼、人間不信で皮肉屋で……まあ結構クセの強いキャラだと思うんだけど、絶対に好きにさせるぞ! というスタッフの気合を感じる。自分ももちろん大好きだ。
 
  • シーズン4 第10話「赤のフーガ」(シリーズ通算#80 Fugue in Red
事件の調査中に命を狙われたジェーン。ショックによる記憶喪失を起こした彼は、人格がレッド・ジョン事件前に戻ってしまう。ジェーンは自分が結婚していたことも、妻と娘をなくしたことも覚えていない。つまり記憶喪失回。そして過去回想でなく詐欺師時代のジェーンの姿が現在に蘇る異色の回でもある。
記憶をなくしたジェーンはまあ嫌なやつで、軽薄で能天気で無責任、人を騙すことを何とも思っていない。女性への手癖も悪く、今まで苦楽を共にしたCBIメンバーからも白い目で見られ、チョウには「事件の後の方がいいやつですね」とまで言われる始末。
しかしその振る舞いは、自分の身に起きた悲劇を思い出したくないという無意識の抑圧によるものだ。リズボンたちはジェーンの過去に触れないよう、腫れ物に触るような扱いをする。ジェーンの行動はますますエスカレートし、それをCBIメンバーに咎められる。
「分かってるぞ。僕の身には何かひどいことが起こったんだろ。忘れてる今のほうが幸せだ。このまま忘れていたいんだ」
なんて切ないことを言わせるんだ……。
最後には、リズボンは彼に記憶を取り戻させるという決断を下す。このまま忘れていた方が幸せな日々を送れるかもしれないのに。しかしジェーンにとって、それが本当に幸せなのか? 悩んだ末に決断を下したリズボンは、最後まで責任を持ってジェーンに付き合う覚悟を固めていると感じて、ジェーンに萌える……というか、この回の2人にはかなり胸を打たれるものがあった。
最後に、字幕について一言。ラストでリズボンがジェーンにかける "I'm sorry." が「つらいわね」という訳になっているけど、これはそのまま、「ごめんなさい」じゃないだろうか。つらい記憶を呼び戻してしまったことへの謝罪なのではないかと思うんだけど、どうだろう?
 
  • シーズン2 第10話「炎の剛速球」(シリーズ通算#33 Throwing Fire
ジェーンの幸福でない子供時代が明かされる、過去回想回。事件の捜査中に頭に野球ボールを食らって(漫画みたいだ)、ジェーンの意識が過去と現在を行ったり来たりする。
この回では、青年と少年と間くらいのジェーンの姿が見られる。子どもの頃から洞察力と回転の早い頭脳を備えていたジェーンは、その能力を金儲けに使う父親と共に、サーカスのドサ周りを送っていた。父親は彼に、霊能力者のふりをして金持ちの病人を騙す仕事を持ちかける。「奇跡の少年は少年だからいいんだ。お前も半ズボンはもうキツいだろ?」
意識が現在に戻り、事件の捜査をするジェーンは、事件関係者の野球少年に「才能は売っても魂は売るな。父親の言いなりになるな」と告げる。ジェーンの過去を掘り下げて見せるだけでなく、過去が現在とリンクして、事件の中にも少し風を吹かせる、そういう描写がいいなと思った回。
 
ジェーンに萌えろの回はとにかくいっぱいある。以下、簡単に。
 
  • シーズン1 第7話「朱をそそぐ」

ジェーンvs霊感セラピスト:クリスティーナ回。ジェーンが自称霊能力者と対峙する回はいくつかあるんだけど、クリスティーナは「本物」ではないか? と思わせるところがあり、それを否定したいジェーンはいつもより皮肉屋で余裕がない。
それでもラストに、クリスティーナに「奥さんが伝えてほしいことがあるって言ってるわ。娘さんは怖い思いをしなかったって。眠っていたから」と告げられて、思わず涙してしまう。何という切なさだろう。因みにクリスティーナの顛末も、あれで終わりなのは残念だけど、オタク的には「すげえなこの展開……」と思った。
 
  • シーズン4 第23話「赤いかくれんぼ」

妻と娘の9年目の命日、お墓参りをしているジェーンにレッド・ジョンが接触を図ってくる。姿の見えないレッド・ジョンの影に追い詰められ、ジェーンは精神の均衡を崩していく。捜査で行き詰ったジェーンが容疑者を拷問する、(この言葉はあんまり使いたくないけど、いわゆる)サイコパス全開な姿が印象的だった。いつものジェーンだったらこんなことはしないのかもしれないが……。

 

  • シーズン3 第8話「火の玉」
ジェーンが過去の事件の関係者に誘拐されて、牛追い棒で虐待されまくる回。
「リズボン、君を生きたまま焼かせはしない……」→「『生きたまま』焼かせはしないって言ったろ?」とリズボンを殺害(※演技です)の流れが好き。あと、ラストでイチャイチャ喧嘩してるところ。かわいい~。
 

CBIの仲間たち 回

ジェーンや、ジェーンとリズボンの関係性に萌えるのはもちろん、CBIのメンバーも好き……。小柄だけどムキムキで無口なアイスマンのチョウ(推し)。軽そうに見えて父親との確執を抱えた、恋愛に不器用なリグスビー。新人からたくましく成長していくヴァンペルト。何よりジェーンの相棒・リズボン。小柄ながら勇敢で正義感が強く、部下からも慕われている。母親を早くに亡くし、アルコール依存症の父親の代わりに弟3人の面倒を見ていた。それだけに面倒見がいいが、自分が弟たちを見捨てたという意識があり、弱い一面も垣間見せる。
FBI編のメンバーも悪くなかったけど、やっぱりいつものCBIメンバーがよかった。自分が『メンタリスト』視聴を続けられたのも、このメンバーが長いこと変わらなかったから、という理由が大きい。
 

ラジオの恋愛相談室番組に出演したことのある女性が、自宅で殺害される。ジェーンはラジオ番組を使って犯人を導き出す方法を思いつき、リグスビーとヴァンペルトに恋人のふりをして番組に出演するように仕向ける。つまり、リグスビーとヴァンペルトの回だ。

ヴァンペルトとリグスビーの関係について触れたが、この話が実質終着点だと思う。ラジオ番組で恋人として振る舞いながら、言い合いに発展する2人。互いの非を責めていたが、そんなことはもういい、とヴァンペルトが核心に迫る。自分たちは幼く、私は自分のことで精一杯だった。うまくいかなかったのは仕事だけのせいじゃない。そしてこう続ける。
「でも私たちはあの頃とは違う。それでいいの、私は今の自分が好き。」
リグスビーを見つめるヴァンペルト。「今のあなたのことも」
ヴァンペルトの言葉に、リグスビーは「君への気持ちは変わらない。出会った頃からずっと」と答える。
正直言って、かなりグッときた。男女2人の恋愛なのに……。ここまでに本当に(話数的にも)長い紆余曲折があって、それまでのどんなエピソードも無駄ではなかったというような説得力があった。話数が多いドラマだからできる、いろんな話の積み重ねの上に関係性が載ってくる感じがすごく好きだ。ロングスパンのホビーアニメで、それ自体は飛ばしても問題ないようなコミカル日常回、そういうのを延々観るからシリアス回が沁みるよね~みたいな……。何の話?
それに『メンタリスト』はやっぱりジェーンの物語だから、どうしても他のキャラがストーリーの犠牲になっているように感じることもある。前述のヴァンペルトの不遇を、彼女の成長と2人の関係の成就という形で決着させたことにも感動したし、この回は本当によかった。
 
  • シーズン4 第24話「赤い制服のウェイトレス」(シリーズ通算 #94 The Crimson Hat
シーズン最終話はクリフハンガーもかねて、面白い話が多い。シーズン4の最終話は、すっかりやさぐれた(ように振る舞っていた)ジェーンが、ある女性と出会って一夜の恋……と見せかけて、やっぱりレッド・ジョンの手先が接触してきたのだった。そして、なんとレッド・ジョンの仲間になるようもちかけられる。提案に乗るふりをしようとしたジェーンに、レッド・ジョンが手土産として要求したのは「リズボンの首」だった。
この話はCBIメンバーが一丸となってレッド・ジョンを……というかレッド・ジョン以外の世間の目やらFBIやらいろいろを欺き、作戦を決行する様子がいい。チーム感が強く出ている回は、後述する「ストロベリー・クリーム」とかもそうで、作戦を決行する様子に分かりやすくハラハラとワクワクがある。あと、ジェーンに「僕のためにすまない」と言われて、「あんたのためじゃない。ボスのためだ」と即答するチョウに萌えた。
 
そして推しであるキンブル・チョウ、頭痛薬回(シーズン4第18話「赤いお茶」)とかサマーとの顛末とかあったけど、特筆すべきことがない。まあ、チョウはいつも「イイ」からね……。
 

「やっぱりレッド・ジョンが好き」回

レッド・ジョンに関係する回も挙げておこう。もちろんレッド・ジョンが嫌いなわけではないんだけど、シリアスかつ本題を進めるのがメインになって、どうも味付けがワンパターンになりがちというイメージ。コナンの黒の組織回みたいな。
しかし見直すと……昔のレッド・ジョンは輝いてたな〜。今から紹介する回で広げた風呂敷は、最終的には割とクシャクシャに畳まれてしまうので、過去の美しい柄を楽しもう。
 
  • シーズン3 第24話「ストロベリー・クリーム パート2」(シリーズ通算#70 Strawberries and Cream: Part 2
よく好きなエピソードとして挙げられてるのを見るけど、そんなにいいか? と思って見直したらかなりよかった回。レッド・ジョンの手先候補をリストから探す緊迫感、ストーリーが普通に面白いんだけど……何よりレッド・ジョン(偽)のキャラクターがよかった。ラストまで観てからだと……正直なところ本物よりよかった。
ジェーンが見つけ出したレッド・ジョン(後に偽者と分かるけど、この回の言及は「レッド・ジョン」とします)は、そこそこ品のいい、どこにでもいそうな紳士だった。最初はしらを切っていたものの、ジェーンが問い詰めると自分がレッド・ジョンだと白状する。そして、自分はもう殺しをやめるので、ジェーンにも復讐をやめるようにと語る。
このレッド・ジョンが、平凡であることが恐ろしく、それでいて魅力的だ。ジェーンに絆を感じて、思いやっているかのようなことを言う。
「君とは絆がある。別れも言いたいし謝罪もしたい。苦しませて悪かった。君の呪いを解きたい」
自分で殺しておいて、なんて勝手な言い草。でも、ものすごくいい。ジェーンが一方的に復讐の相手として追ってるだけでなく、レッド・ジョンからもジェーンに対して思うところがある……と感じさせるのが、実にいい。
「私は普通の男だ。欠点や問題のある、普通の人間だよ。君が人生を捧げる価値はない」

あの~、今からでも彼がレッド・ジョンってことになりませんか?

本当にいい。そして何より、残酷さや恐ろしさの匂わせ方がいい。最後に、レッド・ジョンはジェーンを残して立ち去ろうとする。ジェーンは縋るように、本物のレッド・ジョンだという証拠はあるのか尋ねる。

「奥さんは清潔で、ラベンダーの香りがした。」
戸惑うジェーン。レッド・ジョンは続ける。
「娘さんは汗と……甘い香りだ。ストロベリー・クリームの匂い」

 

  • シーズン2 第8話「彼の赤い右腕」(シリーズ通算#31 His Red Right Hand
行き過ぎた捜査と執着でレッド・ジョンの事件の担当を外されたジェーン。後任のボスコといがみ合い、しかし次第に歩み寄るように……なってきたところで、ボスコのチームが何者かに襲われてしまい、それがレッド・ジョンの差し金であることが明らかになる。なぜこんなことを、と尋ねるジェーンに、レッド・ジョンの手先はこのように告げる。
「あなたに戻ってきてほしいからよ。あなたもそう望んでいるはず」
レッド・ジョンの事件を担当したいとジェーンが思っているように、レッド・ジョンもまたそれを望んでいるのだという。ボスコを疎み、ボスコからも目の敵にされていて、ようやく和解できるかと思わせて、この展開を持ってくる。ボスコを殺したのはレッド・ジョンであるけれど、それがジェーンの願いを叶えることになると告げられて……。やるせねえ~。最高~。
ボスコがリズボンに愛を告げ、ジェーンにレッド・ジョン事件を託す様子も、やるせなさと余韻を生んでいる。ジェーンとボスコの最後のやりとりがかなり好き。
そしてこの、序~中盤、レッド・ジョンがジェーンにシンパシーを感じているような描写が好きだ。ここらへん、ローレライを通じて仲間に誘われる展開から深堀りされていくかと思ってたけど、そうでもなかったな……。
 
  • シーズン4 第7話「点滅するレッドランプ」(シリーズ通算#77 Blinking Red Light
これはレッド・ジョン回というか……最終的に「そう」なるんだけど、エピソードの中ではずっと別の連続殺人犯「サンホアキン・キラー」を追っている。その中で、ジェーンはサンホアキン・キラー事件を追う記者・パンザーが真犯人だと気づくも、彼はなかなかボロを出さない。テレビでは「サンホアキン・キラー」の特番が組まれ、パンザーと共演する中で、ジェーンはあえてレッド・ジョンの名前を出す。録画を示すカメラの赤いランプが点滅している。パンザーは「レッド・ジョンなどサンホアキン・キラーにはとても及ばない」と息巻く。その後彼の身に起こったことは……。
ジェーンはあえてパンザーにレッド・ジョンを挑発させることで、その凶行を止める。ジェーンがレッド・ジョンを利用し、毒をもって毒を制すという話で、2人のある種の共犯関係が成立してしまう恐ろしい回だ。ちなみに、タイトルの「赤いランプが点滅する」シーンが3回あり、最後のカメラの点滅はジェーンがレッド・ジョンを利用しようとしているシーンで、まるでジェーンへの警報のように映る……という演出も見事で好き。
 

終わりよければ全てよし 回

最後に、これに言及せずにメンタリストは語れないな、と個人的に思っていることについて。つまり、長い間自分の傲慢を悔い、レッド・ジョンを追い続け、本心を隠すことが常になってしまったジェーンが、ようやくその呪いを解く回。
  • シーズン6 第22話「青い鳥」(シリーズ通算 #138 Blue Bird
ここまでの、2人の男の間で揺れるリズボンについては、こんなリズボン見たくなかった……という気持ちが大きすぎるので割愛します。正直ここにいたるまでの展開はそんなに好きじゃない。しかし……リズボンがジェーンに愛想を尽かし、いよいよ自分の下を去ってしまう、というときになって、ようやくなりふり構わずリズボンを追いかけて、愛を告げる。
君の言う通り。僕はまともに振る舞えない。駆け引きして、嘘をついて、人を騙し――自分の気持ちを隠す。距離を縮めるのが怖い。理由は分かるだろ?
でも……。君にもう会えないなんて想像できない。君を―—愛してるんだ。
ああ……。
自分はなんというか、男女が2人いればすぐに恋愛にしてしまう、みたいな展開がかなり嫌で……。あと、他人を愛することは素晴らしく、恋愛こそ人間関係の最上位、みたいな考え方も嫌で……。正直、ジェーンとリズボンに対しても「この2人はめっちゃ萌えるけど、恋愛的にくっつかなかったらマジで最高なのにな……」と思いながら観ていたのだ。
しかし、この回を観ているとき、これは物語として大事なシーンというか、ジェーンというキャラクターにおいてなくてはならない展開だな、と思った。妻子を喪ったジェーンは、自分に正直になることや他人を愛することに、ひどく臆病になってしまった。あまりにも深く傷ついて、もう失ったり傷ついたりすることに耐えられないから。だからリズボンに対して愛情を抱いているのを誤魔化し隠そうとして、それでも最後は自分の恐怖に打ち勝つ。ジェーンが真に事件から解放されたのは、レッド・ジョンへの復讐を成し遂げたシーンではなく、このシーンじゃないか?
そして何より……いつも好き勝手振る舞うジェーンと、文句を言いつつ最後には彼の味方になるリズボン……。レッド・ジョンにのめりこみ、正気を失っていくジェーンを信じて心配するリズボン……。レッド・ジョンの魔の手が迫り、誰も信じられなくなってもリズボンにだけは心を許しているジェーン……。そして罪悪感や苦しみを背負いながら修羅の道を行くジェーンと、そんなジェーンに最後まで付き合う覚悟を決めているリズボン……。これをもう100話近くこれを観たあとなので、「もういいです! 2人の結びつきがあって幸せなら恋愛でも何でもいいです!!」となってしまった。
ちなみにここから先はボーナスタイムなので、なんかもう全体的にイチャイチャしてる。上記の通り、カップルにならない方が好みだったけど、もうこの2人に対しては「よかったね~よかったね~」と猫でも愛でるような目で見ていた。
 

総括

ハイタワーやラローシュなど、初登場のときは「こいつは好きになれそうにないな」と思うキャラをちゃんと好きにさせていく手腕とか、やっぱり何気ないやりとりとか、ウィットに富んでいてセンスを感じた。レギュラーや準レギュラー含め、キャラクターが結構みんな好きになれたのもよかった(だからこそ、ラローシュやスタイルズ、カークランドを……あっさり殺すな~! シリーズが終わりに向かってるからって一掃処分セールするんじゃない! とも思った)。ジェーンの鮮やかな手腕や1話ごとのストーリーは、観ていて飽きることがなかった。
スケジュールや体力的に、もしかしたらもうこれだけ長いドラマを完走することはないかもしれない。いろいろ言ったけどやっぱり面白かったし、何よりハッピーエンドで本当によかった。ありがとう、『メンタリスト』……愛してる。