初見感想『フリューゲルー君がくれた翼ー』『万華鏡百景色』

このタイミングで観劇することにだいぶ複雑な気持ちを抱きつつ、初めて宝塚を観てきた。宝塚について「全員女性で、男役女役にそれぞれトップがいるらしい」くらいの知識しかなく、本公演が「約1時間半のお芝居と約1時間のショーの二本立て」ということすら知らなかったんだけど、結論から言うとかなりよかった。よかったが故にまた複雑な気持ちになりました。そこについては後述するとして、以下感想。


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『フリューゲル ー君がくれた翼ー』

冷戦下の東西対立により国が分断されていた1988年のドイツ。社会主義国となった東ドイツの国家人民軍で広報を担当するヨナス・ハインリッヒは、西ドイツのポップスター、ナディア・シュナイダーを招聘したコンサートの責任者に任命される。欧州各地で巻き起こった民主化の波は東ドイツにも押し寄せており、政府は国民の不満を解消する目的で首都東ベルリンでのコンサートを企画したのだった。自由奔放なナディアの言動に振り回され、顔を合わす度に喧嘩を始めてしまうヨナス。しかしリハーサルでナディアが歌う「フリューゲル」という曲を耳にした瞬間、その歌声に胸を打たれ、離れ離れとなった家族と過ごした幼い日々を思い起こす。音楽を通じて初めて心を交わした二人・・・。そんな二人をヨナスの大学時代の同期でもある秘密警察のヘルムート・ヴォルフが監視していた。
東西に隔てられた国で育った男女が、考え方の違いから最初は反発しながらも次第に惹かれ合っていく姿を、ベルリンの壁崩壊へと向かう激動のドイツを舞台に描くコミカルでハートウォーミングなミュージカル作品。
(公式サイトより引用)

ポスターなど

宝塚のお芝居は原作もの(古典文学や海外ミュージカル、漫画・映画・ゲーム等を舞台化した作品)とオリジナル作品に分かれているらしく、『フリューゲル』は完全オリジナル作品。正直、ポスターからはどんな雰囲気の作品なのかいまいち分からなかったけど(一緒に観た友人もポスターだけ見た段階では「なんかトンチキそうだな〜」と言っていた)、まずストーリーがふつうによかった。原作ものと違ってアウトラインを生半可に知らずに済んだ分、素直に鑑賞できた。1時間半という尺の中に起承転結のあるドラマがきれいに収まっていて、その中に歌とダンスがちゃんとした立ち位置で組み込まれていて、当たり前のことを言うようだけどかなり満足感がありました。

よかったところ。「幼い主人公が母と離れ離れになり、母を憎む」→「2人が再会し、誤解が解ける」、「ウマが合わずに反発する主人公とヒロイン」→「歌をきっかけに互いを知り、だんだんと分かりあう2人」のように、こう来たら次はこうなるだろうな……というのが丁寧に回収されるところ。特にヨナスとナディアは、「Nein!Nein!世界に2人だけになってもこの人とだけはありえない!」という歌を歌い出したあたり、これは絶対に仲よくなっちゃうやつだな……とニヤニヤしてしまった。明確なラブ♡じゃない終わり方なのもGOODポイントめちゃくちゃ高いです。

印象に残った歌とダンス。上記のNein!(かわいいので)、DDRの……たぶん軍人だったと思うが……が踊るダンス。Moskauみたいな脚を交互に広げるステップで、ソ連っぽさを感じてよかった。そもそもMoskauのあの振りに元ネタとかあるのかな……コサックでもないしな……。あとはやっぱりドイツ語での歓喜の歌。曲の持つパワーがあり、シーンの中でも重要な意味づけがあり、白眉だと思います。

キャラクターについては、軍人が多く似たような髪型で、自分が顔を覚えるのが苦手なのもあり、最初は服が変わると見分けがつかなかった。ヨナスの部下?軍人仲間?の男性2人女性2人は、なんかキャラが立っててかわいかったな。特に黒髪のツンとしたほうの女子。アメリかリリか分からんけど……。フランツ神父もよかった、カソックでメガネでビジュアルデザインがグッときた。

あと絶対絶対書こうと思っていたのが、敵役のヘルムートの結末。舞台に背を向けて帽子を地面に捨て……あたりで「おっ、やるか? やるか?」と思っていたので、跪いて銃を抜いたときは観劇中一番アガった。友人は「ヅカではあんまり直接的な暴力や死はやらないんだよ〜」みたいなことを言ってて(ホントか?)、直接映さず銃声で分からせるのもベタだけどよかった。ヘルムート、邪悪と取るか信念を持った敵と取るか微妙な感じだったけど、あそこで一気に悪役として完成した印象を受けた。黙って引き金を引く男は最高。悪役はやっぱり自○!

万華鏡百景色

こっちは後半の「ショー」。大階段を使ったパレードがあって、演者の方がデッカイ羽飾を背負ってて……という、自分が思い描いていた「宝塚」のイメージそのままのやつだった。まさに「絶景かな〜」って感じで、2階席まで客降りがあって目の前に演者さんが来たときは死後の世界のようでした。

よかったところ。江戸〜令和までをショーとして振り返る、題材や曲の選び方。この歌い出し聞いたことあるな……と思ったら『東京Rendez-vous』だった。いまKing Gnu流れてなかった? あと「ティッシュ配りのお兄さん」(と、「彼に職務質問するおまわりさん」)役の方がいてビックリした。あんなハンサムなお兄さんがいるか。最初の番傘を使った踊りもよかったけど、ここで現代かつ都会を表すものとしてビニール傘が出てくるのも気が利いてる。あと印象的だったのは『地獄変』、布を使った炎の表現がとてもよかった。2階席で見てたのがよかったまである。オタクに『地獄変』嫌いな人いない(過剰な一般化)。

にしても宝塚に限らず、娯楽を楽しむにも最低限の教養は必要だよなと最近しみじみ思うのだが、今回もそれを感じることがあり……。というのも芥川龍之介の『舞踏会』が演目の一部になっていたんだけど、自分は読んだことがなかったので、オチが何となくしか理解できませんでした。

https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card28.html

『舞踏会』を知らなくてもピエール・ロティを知っていれば……。知らなくても楽しめるけど知っていればより楽しめたんだろうな〜。

それを置いといても、ものすごい早着替えでの豪華な衣装の数々、1シーンのごとにテイストを変えてくるパレード、こんなん考えた人は(悪い)金持ちに違いないな……と思わせるようないかにもなダンスなど、非現実的な世界観で、多幸感と浮遊感をとても感じるすごい空間でした。

宝塚ビルやファンショップ

初めて中に入ったんだけど、入り口に係りの方がいて、レッドカーペットにシャンデリア……という、なんかちゃんとしたホテルみたいだなと思った。ビルから異空間の趣だった。観劇、あの客席以外はいまいち居場所がない感じがおもしろいよな……。余談だけど、演者の方が年下になってしまうと(若い子を見る感覚になってしまって、キレイなお姉さんへの憧れ的な)トキメキはあまり得られないのでは……と心配をしていたけど、マダムがほとんどだったので安心した。中年ネキとしては心強いコンテンツ。

ファンショップは向かいのビルの上階にあって、Blu-rayやポスター、そして大量のブロマイドが売っててこれもまた異空間だった。フィクションの中の○○女学園の現実版みたいな。おもしろいな〜と思いながら正直ちょっと怖いものを感じて、たぶんこの「独自の文化」は時代に合わない因習と近しいもので、それがいま事件として表に出ていると感じているからでしょうね。

最後に

しみじみと豪華で非日常でハレの空間だな〜、これは自分がファンになるかは関係なくずっと続いてほしいな〜と感じつつ、同時に人命より優先されるべき伝統なんてものはないと思います。席代やパンフレットもかなり安価だと感じましたが、それがやりがい搾取的な働き方で成り立っているのであれば変えてほしい。演者の方がパワハラ長時間労働のない、安全かつ健全な環境で働けることを望みます。

終わり。